大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和61年(行ウ)71号 判決

大阪府吹田市山田東4丁目41番5-1115号

原告

廣尾春一

右訴訟代理人弁護士

守井雄一郎

大阪府吹田市片山町3丁目16番22号

被告

吹田税務署長 万谷正治

右指定代理人

細井淳久

外4名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が,原告に対し,昭和59年7月4日付でした原告の昭和58年分の所得税についての更正処分及び重加算税の賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は,別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)及び同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」といい,一括して「本件土地建物」という。)を所有していたが,昭和57年12月2日,長田昭男(以下「長田」という。)との間で,原告が長田に対し本件土地建物を代金33,230,000円で売渡す旨の売買契約を締結し,昭和58年1月20日,長田に対し,本件土地建物を引渡した。

2  原告は,昭和59年3月15日,被告に対し,昭和58年分の所得税について,本件建物に租税特別措置法(以下「措置法」という。)35条1項の適用があるものとして,別表(1)の確定申告欄記載のとおり,確定申告をしたところ,被告は,同年7月4日,原告に対し,本件建物は措置法35条1項に規定する「居住の用に供している家屋」に該当しないとして,別表(1)の更正処分欄記載のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,一括して「本件各処分」という。)をした。

3  そこで,原告は,同年9月4日,被告に対し,異議申立をしたところ,被告は,同年12月4日,異議申立棄却の決定をしたので,原告は,同月27日,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,同所長は,昭和61年5月23日,審査請求棄却の裁決をし,右裁決は,同年6月6日,原告に送達された。

4  しかし,原告は,自己の意思で,原告の所有する唯一の建物である本件建物を自らの住居と定め,本件建物の所在地を現住所として住民登録を行い,昭和57年7月からは,現実に本件建物に居住していたのであるから,本件建物は,措置法35条1項にいう原告の「居住の用に供している家屋」に該当するというべきであり,被告が,本件建物について同条項の適用を否認して,原告に対し,本件各処分をしたのは,違法である。

5  よって,原告は,被告に対し,本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実及び主張は争う。

三  被告の主張

1  原告の昭和58年分の譲渡所得金額は,29,492,300円であり,その明細は,別表(2)の更正処分欄記載のとおりである。

2  譲渡所得金額の内訳

(一) 譲渡収入金額 33,230,000円

原告が,昭和58年1月20日,長田に対し,本件土地建物を譲渡した際の譲渡代金である。

(二) 取得費 1,661,500円

原告は,昭和56年4月1日,原告の長男である亡廣尾武(以下「武」という。)から,本件土地建物を,本件土地については交換により,本件建物については贈与によりそれぞれ取得したものであるから,本件土地建物の取得費は,所得税法58条,60条,措置法31条の4により譲渡所得金額33,230,000円の100分の5に相当する1,661,500円となる。

(三) 譲渡費用 1,076,200円

原告が,本件土地建物の譲渡の際,株式会社小林エステイトに対し支払った仲介手数料1,000,000円と収入印紙代等76,200円との合計額である

(四) 特別控除額 1,000,000円

本件土地建物の譲渡所得は,分離長期譲渡所得に該当するから,措置法31条3項により1,000,000円の特別控除がある。

3  本件更正処分の適法性

措置法35条1項にいう「居住の用に供している家屋」とは,譲渡時もしくはこれに近い時期までに,その者がある程度の期間継続的に真に居住するなど実質的な生活の本拠として利用している家屋をいい,当該家屋がこれに該当するかどうかは,その者及び配偶者等家族の構成員らの日常生活の状況,その家屋への入居目的,その家屋の構造,規模,設備及び管理の状況その他の諸事情を総合的に勘案し,社会通念に照らして判断すべきところ,次に述べる事実からみて,原告は,本件土地建物の所有期間である昭和56年4月1日から昭和58年1月20日までの間,本件建物を生活の本拠として利用したことはなく,本件建物は昭和57年7月から原告により譲渡されるまで,仏蘭西屋ホームズ株式会社(以下「仏蘭西屋ホームズ」という。)の事務所として使用されていたのであるから,本件建物は,措置法35条1項にいう原告の「居住の用に供している家屋」には該当せず,本件土地建物の譲渡所得の算出につき同条項の適用はなく,同条項の適用を否認してなした本件更正処分は適法である。

(一) 原告は,昭和55年12月,神戸市西区(当時は垂水区)桜が丘西町3丁目12番地の9所在の原告の二男の廣尾剛一(以下「剛一」という。)の住居に転入し,昭和58年3月,同人及びその家族とともに吹田市山田東4丁目41番5-1115号所在の同人の住居に転出するまでの間,同人及びその家族とともに同人宅に居住していた。

(二) 本件建物においては,電気は,昭和57年6月14日に供給が再開され,水道は,同年7月25日に給水工事が施行され,ガスは,同年10月,都市ガスの供給が可能であるにもかかわらず,プロパンガス設備が購入され,その後,プロパンガスの補充もなされていない。

(三) 本件土地の隣接地である神戸市北区南五葉1丁目2番2号(以下「隣接地」という。)を本店所在地として,昭和54年9月10日,株式会社館ハウジング(以下「館ハウジング」という。)が,昭和57年7月27日,仏蘭西屋ホームズが,いずれも剛一を代表者として設立されたが,本件土地及びその隣接地上には,本件建物以外の建物は存在しなかった。

(四) 昭和57年7月から昭和58年1月20日までの間における本件建物の電気,水道,電話の各使用料は,別表(3)記載のとおりであり,右各使用料は,いずれも仏蘭西屋ホームズの費用として昭和57年7月27日から昭和58年7月20日までの事業年度の損金に計上されている。

(五) 原告が昭和57年7月20日,本件建物の水道施設の設置に際し水道局に提出した給水工事許可申請兼給水工事設計書には,給水目的が「工事用(現場事務所)」と記載され,また,工事用水使用契約明細及び水道料金等支払義務者届には,契約期間が「同年7月21日から昭和58年3月30日まで」と記載されており,右届の誓約書欄には,北区南五葉1丁目2-2館ハウジング株式会社広尾春一」と記載され,欄外に送付先として「西区桜ケ丘西町3丁目12-9」と記載されている。

(六) 原告は,昭和56年1月5日,年金の受給のため,剛一宅に近接する福徳相互銀行押部谷支店に普通預金口座を開設し,常時これを利用している。

(七) 剛一は,原告から本件建物の売却の依頼を受け,昭和57年5月には,不動産取引業者に本件建物の売却を依頼するとともに,同人から措置法35条1項に関する説明を受けており,また,原告は,本件建物の譲渡代金33,230,000円のうち17,640,000円を,剛一の経営する仏蘭西屋ホームズのために融資している。

4  本件賦課決定処分の適法性

原告は,本件建物を居住の用に供していないにもかかわらず,本件建物所在地への転居の届出をし,その旨記載された住民票の写しを原告の昭和58年分の確定申告書に添付して,本件建物の譲渡につき措置法35条1項の適用があるとして,同年分の所得税の確定申告をした。原告の右行為は,課税標準の計算の基礎となるべき事実を仮装したものであるから,被告が,国税通則法68条1項を適用して,原告に対し,本件賦課決定処分をしたのは適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の事実は否認する。

2  同2の(一)ないし(四)の事実は認める。

3  同3の冒頭の事実及び主張は争う。

4  同3の(一),(二),(七)の事実は否認し,(三)ないし(六)の事実は認める。

5  同4の事実及び主張は争う。

五  原告の反論

1  原告は,本件建物において居住していた日数は必ずしも多くなく,剛一宅に長期滞在することも多かったが,それは,原告が,本件建物の所在地に住民登録をしたものの,それ以前からの剛一及びその家族との共同生活における感情的なつながりや一老人として息子である剛一らの保護を要したことなどによるもので,原告の意思としては,生活の本拠は,あくまで本件建物であったものであり,原告は,昭和57年7月,本件建物に水道と便所を設置したうえ,生活に必要な世帯道具を搬入して引越し,近隣にも引越の挨拶廻りをし,居住を始めた。

2  原告の本件建物における電気,ガス,水道の使用量は,少なかったが決して使用しなかったわけではなかった。

3  原告は,仏蘭西屋ホームズ設立後2カ月間位,同社が当時吹田市の展示場を営業の本拠地とすることを予定していたことから,同社に対し,本件建物の一室を,同社の仮の連絡場所として無償で使用させたことはあったが,本店としての実質的機能を有する場所として使用させたことはなかった。

第三証拠

証拠関係は,本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は,本件各処分は,本件建物が措置法35条1項にいう「居住の用に供している家屋」に該当するのに,本件建物につき同条項の適用を否認してなされた違法な処分である旨主張するので,この点について判断する。

1  被告の主張2の(一)ないし(四),同3の(三)ないし(六)の事実は当事者間に争いがない。

右争いのない事実に成立に争いのない甲第1,第11号証,乙第2ないし第6号証の1ないし8,第8ないし第13号証,第14号証の2ないし4,証人廣尾剛一の証言により真正に成立したものと認められる甲第12ないし第14号証,弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第15号証の1,2,第16号証の1ないし3,第17,第18号証の各1,2,第19ないし第22号証,乙第14号証の5,証人廣尾剛一の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。

(一)  原告は,明治42年生まれで,大阪府寝屋川市葛原新町10番15号に土地(昭和36年4月10日取得)建物(昭和42年3月5日新築)を所有していたが,右建物に居住していた長男の武と折合いが悪く,かねてから,同人に対し,右建物の明渡を要求していたところ,昭和56年4月1日,同人との間で,神戸市所在の同人所有の本件土地建物(同人は,昭和45年4月1日に本件土地を取得し,昭和48年4月5日に本件建物を新築した。)と原告所有の前記土地建物とを交換することとなり,同日,武から,本件土地建物を,本件土地については武の土地との交換により,本件建物については双方の建物を互いに贈与することによりそれぞれ取得した。

(二)  原告は,本件土地建物を取得する前から,神戸市西区(当時は垂水区)桜が丘西町3丁目12番地の9の二男の剛一方に剛一の家族(剛一とその妻子)と同居し,剛一から扶養を受けており(剛一は,昭和56,57年分の所得税の確定申告において,原告を同居老親として申告して扶養控除を受けた。)剛一を世帯主とする右住所に住民登録をしていた。原告は,昭和56年4月21日,従前の住民登録地を転出して,本件建物の所在する神戸市北区南五葉1丁目2番地2号(その後本件土地と隣接地に分筆された。)に転入した旨届出たが,依然として剛一宅に剛一の家族とともに居住し,本件土地建物には,時折,草刈,掃除など管理のために訪れるだけであった。

(三)  原告が本件土地建物を取得した当時は,本件建物には,電気,ガスの供給及び水道の設備はおろか便所さえもなく,その後,昭和56年12月19日,電気の供給が開始されたものの,その後ほとんど使用されることなく,昭和57年3月6日,その供給が停止され,ようやく,同年6月になってから供給が再開され,水道設備と便所は同年7月になって,設置された。また,ガスについては,都市ガスの供給が可能であったが,原告は,同年10月19日,プロパンガスの設備を購入して,プロパンガスを使用することとしたものの,原告が本件土地建物を売却するまでにガスを再充填することはなかった。原告は,同年7月ころ,本件建物内に,冷蔵庫,衣類入の和ダンス,布団,炊飯器,食器類等日常生活に必要な物を搬入し,近隣にも引越の挨拶廻りをしたが,それ以降も,大半は,従前どおり剛一宅で生活し,同年12月2日に長田に本件建物を譲渡するまでの間,本件建物で自炊をしたり,泊ったこともあったものの,その間,本件建物に泊った回数はわずか10回位であり,郵便物を取るために立ち寄っただけの場合を除くと原告が本件建物を訪れた日数は延,20日位にすぎない。

(四)  ところで,本件土地と隣接地上に存する建物は,本件建物だけであるが,剛一は,昭和54年9月10日,本件土地を含む分筆前の神戸市北区南五葉1丁目2番2号を本店所在地,剛一を代表取締役として館ハウジングを設立し,東急不動産の特約店として,神戸市三宮の展示場において住宅の委託販売等の営業をしていたが,昭和57年5月に,東急不動産の都合によって同展示場での営業をやめざるをえなくなり,新たに,同年7月27日,分筆後の隣接地を本店所在地,剛一を代表取締役として仏蘭西屋ホームズを設立した(なお,原告は同社の監査役として登記されている。)。剛一は,同社によって,大阪府吹田市の展示場を営業本拠地として注文建築請負の営業をすることを予定し,同年7月から,本件建物を,右営業の準備のための連絡場所として無償で使用し,本件建物において右準備活動のための電話連絡をしたほか,仏蘭西屋ホームズの従業員も,事務連絡のため本件建物に訪れたりしていた。

(五)  原告が昭和57年7月20日に本件建物の水道施設の開設に当り神戸市水道局に提出した給水工事許可申請兼給水工事設計書には,給水目的が「工事用(現場事務所)」と記載され,また,工事用水使用契約明細及び水道料金等支払義務者届には,契約期間が「同年7月21日から昭和58年3月30日まで」と記載されており,右届の誓約書欄には「北区南五葉1丁目2-2館ハウジング株式会社廣尾春一」と記載され,欄外に付記された右届の送付先は,当時の剛一宅の所在地である「西区桜ケ丘西町3丁目12-9」と記載されていた。

(六)  本件建物における昭和56年7月から昭和58年1月までの間の電気,水道,電話の各使用料は,別表(3)記載のとおりであり,右各使用料は,いずれも,仏蘭西屋ホームズの費用として昭和57年7月27日から昭和58年7月20日までの事業年度の損金に計上されている。

(七)  原告は,年金の受給等のため,昭和56年1月5日,当時の剛一宅に近接する福徳相互銀行押部谷支店に,同年5月19日,本件土地建物に近接する日新信用金庫鈴蘭台支店にそれぞれ普通預金口座を開設したが,同年4月から昭和57年12月までの間,前者を年金の受給等に頻繁に利用していたけれども,後者を利用したことはほとんどなく,右期間中に年金の振込がわずかに3回あっただけである。

(八)  本件土地建物の売却については,剛一が原告を代理して,交渉等に当っていたが,剛一は,昭和57年10月には,仲介者から買受を希望する者として長田の紹介を受けて,同月下旬,同人との間で,一旦,本件土地建物につき売買契約を締結し,同人から手付も受取ったが,その後,都合で右契約は解消され,同年12年2日改めて同人と代金33,230,000円として売買契約を締結し,昭和58年1月20日,同人に本件土地建物を引渡した。剛一は,原告から,右売買代金33,230,000円のうち17,640,000円を,仏蘭西屋ホームズのために融資を受けている。

以上の事実が認められ,右事実を覆すに足りる証拠は存しない。

2  本件更正処分の適法性

措置法35条1項の趣旨は,生活の本拠である居住用財産を譲渡した場合に,その譲渡所得に対する税負担を軽減して,これに代わる居住用財産の取得を容易ならしめるところにあり,右規定の趣旨からすると,同条1項の「居住の用に供している家屋」とは,その者が生活の本拠として居住する家屋と解するのが相当であり,その判断は,その者及び配偶者等の日常生活の状況,その家屋への入居目的,その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して,社会通念に照らして客観的になされるべきである。

そこで,本件土地建物の譲渡が,同条1項所定の「居住の用に供している家屋」の譲渡及び「当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地」の譲渡に当たるか否かについて判断すると,前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば,本件建物が,原告の所有する唯一の住宅用建物であり,原告が,これを取得直後に同所に転入した旨の届出をしたこと,原告は,昭和57年7月ころ,本件建物に寝具と生活用具を持ち込み,そのころ近所に引越の挨拶をしたこと,原告は,それ以後,本件建物を訪れたり,宿泊したことがあったことが認められるが,前記1の認定事実に弁論の全趣旨を総合すると,原告は,当時73歳の老齢で,本件土地建物を取得する以前から,二男剛一の家族と同居して生活し,年金を受給してはいたものの,主として剛一に扶養を受けて生活しており,本件土地建物取得後,本件建物を譲渡するまでの間も,ときたま本件建物を訪れることはあっても,その生活状況にはそれ以前の生活と基本的に変化はなかったこと,原告が本件建物を訪れるようになったのは,本件土地建物を取得してから1年3か月以上も経過した昭和57年7月になってからであり,そのわずか3カ月ほど後の同年10月には,剛一を通じて本件土地建物を売却処分する手続を具体的に進め,一旦は,売買契約も締結するに至ったこと,訪れた回数は,単に郵便物を取るために立ち寄ったに過ぎない場合を除くと延20日位,宿泊した回数はわずかに10回程度であること,本件建物は,原告が取得した後かなりの間,電気,水道,ガスの供給を受けておらず,電気の供給が再開され,水道設備ができたのは本件土地建物譲渡の5か月前である同年7月からである(ガスの設備を整えたのは具体的に売却の手続が進められていた同年10月に至ってからである。)こと,本件建物は,剛一の事業の用にも供され,右の電気供給,水道設備工事等の措置は,本件建物を右事業のために使用することが必要となった時期とほぼ一致し,右措置は,原告の生活の便宜というより,剛一の事業の便宜のために取られたものであるとみられること,原告が本件建物に持ち込んだ生活用具は比較的簡易な身の廻り品のみであることが認められるのであって,これらの事実を総合考慮すると,原告が本件建物を生活の本拠としてこれに居住していたものと認めることはできないというべきであり,本件土地建物の譲渡は,措置法35条1項所定の「居住の用に供している家屋」の譲渡及び「当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地」の譲渡に当たるということはできず,本件土地建物の譲渡所得の算出につき同条項の適用を否認してなされた本件更正処分は適法であるというべきである。

3  本件賦課決定処分の適法性

前記認定1(一)(二)の事実によると,原告は,本件土地建物を取得した直後である昭和56年4月21日に,実際には転居していないのに,当時居住し住民登録をしていた二男剛一方から,本件建物の所在する神戸市北区五葉1丁目2番2号に転入した旨届出て,その旨の住民登録を受けたものであり,前記1,2で認定した,原告が本件土地建物を取得した後の原告の生活状況,居住状況,本件建物の諸設備設置の経過とその状況,本件建物の利用状況,本件土地建物の譲渡の経緯などに,原告と同居し,原告に代って本件土地建物の処分をした原告の二男剛一が,不動産取引関係の事業に従事し,居住用家屋の譲渡における特別控除の制度を熟知していると考えられることなどの事情を総合すると,原告は,右住民登録後においても,本件建物を生活の本拠としてこれに居住する意思はなかったものと推認するのが相当であり,それにもかかわらず,原告は,昭和58年分の所得税の確定申告において,原告が昭和56年4月21日に神戸市北区南五葉1丁目2番2号に転入した旨の住民票(除票)の写しを添付して,本件建物を「居住の用に供している家屋」として申告した(前掲乙第2,第3号証,弁論の全趣旨により右事実が認められる)ものであるから,原告の右行為は,故意に課税標準の計算の基礎となる事実を仮装し,右仮装したところに基づき確定申告書を提出したものと認めることができる。したがって,被告が,国税通則法68条1項を適用して,原告に対してなした本件賦課決定処分は適法であるというべきである。

三  よつて,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき行訴法7条,民訴法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山本矩夫 裁判官 佐々木洋一 裁判官 植屋伸一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例